2021年シーズン アジアチャンピオンズリーグ ベスト16 蔚山現代ー川崎フロンターレ 感想

蔚山文殊サッカー競技場で行われた蔚山現代-川崎フロンターレ戦は120分の死闘の末0-0で決着が付かず、PK戦(3-2)の結果、蔚山現代が勝利。川崎フロンターレが2021年シーズン、目標の一つとして掲げてきたACL制覇の可能性が絶たれました。勝てなかった事は残念ですが、蔚山現代も素晴らしいサッカーをしていたので、緊迫感があり、手に汗握る良い試合を見れた思いの方が強いです。現有戦力で出せるものは全て出し尽くした試合でした。

 

この試合に関してまず思うのが、交代させようにも交代させる選手がいませんでした。延長後半に長谷川と遠野を入れたのは、前からボールを奪いにいく動きを増やす事、PK戦までもつれ込んだ際、計算できるキッカーという意味合いだと見ていました。どこかで宮城を入れてゴールを奪いにいきたかったですが(彼も体調不良で出場できるコンディションでは無かったようです)、彼にしても長谷川にしてもこの試合の様な強度が高く、相手の穴を突くのが上手いチームだと守備面で穴になります。ギリギリまで交代を引っぱったのは納得です。

 

レアンドロダミアン、小林との交代でこの二人を入れた際は、セットプレー時の守備に不安、先日のルヴァンカップ浦和レッズ戦をと同じ嫌な予感がしましたが、鬼木監督としては、それを覚悟で前からボールを奪取し点を取る為に賭けに出たのかもしれません。PK戦の事を考えれば、小林はピッチに残しておきたかったのですが。

 

スタメンを見て、驚きの一つだった小林の左サイドハーフでの起用ですが、左サイドで90分通して守備面で計算できる選手がいなかったからだと思います。後半、ボールを保持できた時間帯は、彼のところから早くボールを運べない、動かせないというデメリットの面が強く出てしまいましたが、120分通してみれば、彼の献身とプレー強度が蔚山現代の攻撃を無失点で抑えた一番大きなポイントでした。チームの為に、不慣れなポジションでも首脳陣から求められた事を遂行した彼には敬意を表すのと共に、出場機会が少ない選手は彼の姿勢を見習ってほしい。

 

中心選手の移籍、主力選手の相次ぐ負傷離脱を考えれば、この試合は監督としては打てる手は全部打ったと言わざるを得ません。ピッチに立った選手、とりわけスタメンの11人に関しては、持てる力を全て出し尽くしてくれました。この試合に限らず、選手層の面で計算外だったのは、イサカゼインや神谷といった大卒2年目の選手、小塚や塚川、長谷川や知念といったチームの選手層を支える中堅世代の選手の成長が伸び悩み、出場機会が増えなかった事です。この点で使える選手が限られてしまい、打つ手も限られてしまった。連戦でトレーニング自体の時間も限られ、彼らを試すトレーニングマッチも組めない。そんな状況だったのではないでしょうか。

 

シミッチやジェジエウ等、フィジカルコンタクトが強い選手が増えた事で、我慢比べで試合を壊さないチームにはなりましたが、蔚山現代の様なアジアでもトップクラスのクラブに勝つにはまだ何かが足りなかったという事です。それはこれから検証し今後の選手の獲得方針やピッチ外で出来る対策に生かさなければなりません。大きな成果は得られませんでしたが、確実に前進しています。大切なのは、今回の結果を検証して積み重ねる事だと思います。Jリーグ優勝に21年かかったクラブです。地道に進んで欲しいですね。

 

次はアウェイで徳島ヴォルティス戦。蔚山現代戦で山村も負傷してしまった為(軽症で復帰まで時間はそうかからないとの事です。よかった)、CBの頭数自体が足りない状況です。率直に言って、今シーズン最大の危機であり、試される場面に遭遇しています。やりたいサッカーよりできるサッカーを表現するしかありません。まだ厳しい戦いは続きますが、シーズンは終わっていません。タイトルは2つ残っています。自分の存在を強烈に打ち出す選手の台頭を期待しています。

 

余談

 

やたら強化部批判を目にするのですが、何すれば良かったんですかね?選手獲得を行おうにも、既存の選手との序列や来季内定が決まっている選手とのバランスがあり、何より選手獲得の原資である「金」がありません。2020年度優勝の強化支援分配金があれば別ですがそんなものはありません。文句があるのなら、金くれってJリーグに言いましょう(笑)。

 

田中、三笘の移籍金は全額二期連続の赤字を防ぐための補填に使われると予想しています。川崎フロンターレをある程度の年数見ている人は知っていると思いますし、最近見始めた方は知らないと思いますが、川崎フロンターレは多分Jリーグのクラブで一番「赤字」に対して厳しいクラブなので、二期連続で赤字を出すのならば、タイトルは諦めると考えていても不思議では無いです。千載一遇の機会なんだから、赤字を垂れ流して、翌シーズン以降の編成にダメージを与えてでもタイトルを取る為に投資しろという考えは否定する気は無いですが、これはクラブが決める事であって、他の誰かが決める事ではない。そう考えています。

 

それとは別に、これはピッチの中でも外でもそうなのですが、新しい事に挑戦する姿勢が薄れているように見えます。ピッチ外で一例を挙げると、現在座席数が5,000席で限定されていますが、こんな状況だからこそ、付加価値を付けて高額に販売する事にチャレンジしてもいいのでは?失敗してもいいので、もっと今だから出来る事に挑戦しないとクラブとしての引き出しが増えてきません。チームがタイトルを積み重ね、売上規模を増えてくると、大小のステークホルダーが増えて、挑戦や失敗が許されない雰囲気があるのも事実。そんなクラブとして未体験の領域に入っているのかも知れません。